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輪栄自動車は、私の祖父の代に自転車屋さんとしてはじまりました。
祖父は早くして亡くなったこともあり、当時のことを私はあまり知りません。

その後、祖父が亡くなると現会長である父が会社を継ぐことになったのですが、何せ急なことだったので「おじいちゃんが死んでもお客さんはどんどんやってくる」という大変な状況だったと聞いています。

そうした時代の中で、日本はどんどん経済発展していき、技術も進化していきます。そのあおりもあって、自転車屋を継いだはずの父の元にも、だんだん自転車ではなくバイクが増えていきます。

そうやって、バイクをメインに商いをするうちに、今度は自動車ですね。
今までの二輪と違って四輪、しかもバイクに比べて構造自体が複雑な自動車が持ち込まれるようになって、事故したと言ってこられても、父も全然わからないけどお客さんは来ちゃうもんですから自分で自動車工学を学んでいったそうです。

父は昔からお客さんに言われると断れない性格なので、自動車は守備範囲外とは言い出せなかったみたいです（笑

そんな父ですが、持ち前のアイデアマンである性格を活かして、自動車屋としてとにかく新しいことを始めていきました。

当時の車はいまみたいな小さいパーツを寄せ集めてつくっていく自動車じゃなくて、柱のようなフレーム構造だったので、ボーンってぶつかると柱がズレるんです。 で、動かなくなっちゃうので持ち込まれた車の柱部分を電信柱に縛り付けて引っ張って、ずれを解消することで修理していました。

どこもそんな感じで修理していたのですが、父は本能的にこれじゃいかんなと思ったみたいで、板金修理に力を入れるために現在の中川区に新工場を立ててフレーム矯正機を入れました。このフレーム矯正機も小型のものが欲しくて、アメリカにあると聞いてアメリカまで視察に行って購入しました。中部で初めての小型フレーム矯正機の導入です。

その後、日本でも車検制度が生まれて車検に力を入れていくわけですが、どうして車検に力を入れたのか聞いたことがあるんです。そうしたら、「不幸を商売にしたくなかったから」だと言っていました。

「お客さんは事故りたくて事故るんじゃない。事故ることはお客さんにとって不幸なこと。
だったら、事故が起きにくいようしっかり点検することがいいと思った」ということでした。

陸運局の近くに工場があるということで、地の利を活かした「安くて早いスピード車検」をはじめたのも市内でうちが最初じゃないかな。とはいえ、違法なことはしない、過剰なこともしないってのは徹底していたんですが。

本来であれば、うちは新しい機械があるということで、他の工場から依頼されたりもしていたので、板金をもっと伸ばせたはずなんですが、父の「人の不幸を商売にしたくない」という理念があって、「せめて、お客さんの喜ぶ顔が見える、きれいになったと言ってもらえる」ように、自分のところに持ち込まれるお客さんの分しかやってきませんでした。

ほんと、お客さんに喜んでもらうことが好きな人だったので、きっと祖父もそういう人だったんだろうと想像しますが、お客さんに喜んでもらえることをやる。それをやり続けて今があると思いますね。

うちとしては、ビジネスとしては事故が減ると困っちゃうんですが、創業者や会長の意思を継ぐと、これからもそういうことを大切にしていきたいと思います。